アルバム『Q-MHz』の全曲感想文を書いた

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 前回の記事で『全曲紹介もいつかやりたい』と書いたところ、はてなスター芸をされたり、ふぁぼという無言の圧力を受けたりしたので、がんばって書きました。
 ちなみに全曲紹介と書きましたが、書き上げたら「全曲感想文」になりました。紹介とかできねぇよ! いいから聴けよ! すげえから!(キレ芸

あらかじめ

 曲順+曲タイトル+ボーカリスト名という見出しとなっています。
 最初の一行、二重カギ括弧で囲ったのは、ファーストインプレッションに近いキーワードおよびフレーズです。
 なお当方趣味で下手ながらベースを嗜んでおりまして、ベースへの言及が多くなっております。

1.LiVE DiVE MHz!!/LiSA

『一曲目!』
 Q-MHzとはなんなのかを百聞は一聴にしかずとばかりに曲でたたきつけてるような曲。
 オカズもたいがいにせぇよ! というテクニカルなフレーズの嵐。一曲の中にどんだけ印象的なフレーズを入れ込めるかの競争をしてるみたい。しかもこれを支えるギターがまたブ厚いわかっこいいわでもー大変。
 楽曲としてはガチャガチャしてるし、歌詞だって情報量多すぎどころか飽和しきってるのに、受け取れるイメージは「元気! 楽しい! LiSA!」ってところにちゃんと集約してるのが、職業作詞作曲家陣による作品だと耳でわからせてる感じ。
 あとカプサイシン。あと聴いてて疲れるw

2.ふれてよ/小松未可子

『ありふれたラブソング。でも、オンリーワン』
 最初に聴いたときは、1曲目と違って聴きやすい……というか、さらりと流れちゃわない? という印象の曲。
 ただ、「好きはとまらないんだ」「ゆるしてよ好きだよ」と、妙にひっかかる歌詞をとっかかりにして曲に入っていくと、なんとも切ない内容で。
 好き好き大好き! ではなく、少しおっかなびっくりで、でもちゃんと静かに好きだよって伝えるような歌詞の内容が、後からゆっくりとしみる。どこにでもありそうな愛を歌ってるけど、なかなかないよ、こういう曲。
 ライナーノーツにもあったけど「じめっとした感じはない、でも泣ける」さらりとした曲で、さらりとした涙を流せる。
 すごくよかったです(私信
 実はじっくり聴くとベースが地味に細かく仕事をしてて、その上を美しいストリングスと、音色としてはややアタック強めのはずなのに優しいギターが流れるテクニカルな曲。またか!w

3.星の名は絶望/鈴木このみ

『ザ・アニソン! ……と見せかけての』
 おっなんかべたべたな路線来たか? というのが最初の印象。ただ、やっぱり一筋縄じゃなかった。
 いきなり絶望なんてキーワードが飛び出したかと思ったら、でーんと重いギターがごりごりと曲を進めてく。
 アニソンによくある『バンド編成で演奏すると楽しいキメ多めの曲』かなーと思ったら、展開がちょこちょこ変わるし、サビ最後は高らかに歌い上げず、淡々と「絶望」と歌う……というか絶望しすぎだろ!
 本質的に気持ちよくないはずの曲と歌詞なのに、重くなりすぎてないのは鈴木このみのボーカル力なんだなと。
 今回呼んだボーカリストだと、LiSA女史なんかはこの重い曲調を上から踏みつけていくようなハイトーンで圧倒するんだろうけど、鈴木このみ女史は正面から殴り合いに行くような、そんなパワーとパワーのぶつかり合いを楽しむ曲。

4.手探りで今のなかを/東山奈央

『箸休めに出てきたおしんこがめっちゃ美味すぎて完食』
 キャラソンの定番ミドルテンポバラードをキャラソン結構歌ってきた東山女史がきっちりと歌い上げる、という曲。
 今まで激しい曲が続いたのでお休み……とはならず。
 この手の曲、だいたいバッキングが安いことが定番なんですが、このアルバムでは当然そんなことがあるはずもなく。
 丁重に練られたストリングスが美しく、要所要所に入るコーラスが曲の印象を彩り、割と定番っぽく動きつつたまに妙に仕事をするベース(また君か)。そして実は一番大事なのは、多種多様なパーカス。キラキラあり、下支えのぽこぽこあり。この曲の印象は実はパーカスで作ってますね。
 ボーカル? 上手いに決まってんだろ(暴言
 あと歌詞なんですが、ライナーノーツによると本人を見たイメージで畑亜貴さんが年齢感高くリライトしたところを本人が「そんなに大人じゃない」と訂正して今の形になったそうで。
 うん、なんというか、非常に彼女らしいんじゃないんでしょうか。よく知らないけど。彼女をよく知ってる人が読んだら「東山だな」と言うんじゃないんでしょうか。よく知らないけど。

5.La fiesta? fiesta!/南條愛乃

『これを南條愛乃に歌わせるか!』
 なんぞこのテクニカルな曲! 聴いてて不安定になる~サビの途中でふらふらと明と暗に触れるし!
 ……という第一印象は、歌詞を聴いてるうちに納得。少年になりたい少女、子供と大人の境目、ボーダーラインに立つ存在。その存在の不安定さとそれを肯定していくストーリーラインは、なるほどこの曲でないと表現できないよね! というもの。
 これを大人でありながらどこか少女性もあり、かつユニセックス感もある南條愛乃に歌わせるあたり、まさに彼女のための曲。
 これを聴いて、このアルバムは本当にどえらいことしてるんだなと思いました。
 声色としては単一なんだけど、どこかボーダーをたゆたうような、少年と少女、子供と大人、どことでも取れるような南條女史のボーカルがまたいいのです。

6.I, my, me, our Mulberry/東山奈央

『東山(少女)と東山(大人)のデュエットとか考えたやつ天才かよ』
 前の曲で打ちのめされてるところにこの曲が耳に飛び込んできて「もうやだこのアルバム(笑顔」となった、トドメの曲。
 今回のボーカリストの中で、もっとも声色の幅がある東山女史のポテンシャルを100%引き出すための選択肢で、声色使い分けのデュエット。悠木碧などが自分のアルバムでそれと近いコンセプトの曲を出しているけど、ここまで明確なデュエットソングはなかなか聴けないなと。
 彼女のポテンシャル出すのによく考えたなーさすがQ-MHzの面々、と思ってライナーノーツ読んでたら本人も話し合いに参加してたそうで、あの年でセルフプロデュースもやるのかよ……。
 とにかくハネる歌詞、でも内容は「……寝てた」であり、非常に畑亜貴作詞っぽい感じが面白いというかなんというか。
 あとこの曲もベースが跳ねてて、また君か。

7.JURASSiC KiSS/LiSA

『このアルバムどこまでバリエーション広げるつもりなの?』
 いきなりジャジーな曲が流れてきたけど、ただのジャズじゃなくて、ジャジーであり、聴いたことない曲に。
 どこか懐かしく郷愁を誘うアコーディオンちっくな音、やっぱり跳ねるベース、負けじと跳ねるオルガン、はじけるぜサクソフォン
 こんな夕暮れ感ある曲に、LiSAってこんなスパイシーな声質だっけ? と改めて驚かされるボーカルが加わって、本当に異世界みたいな曲に。
 歌詞はもう口が楽しいキーワードを集中的に選んでて、それを連ねてるはずなのに、どこか怪しげで極彩色な世界を演出してるのは本当に上手いというかずるい。個人的イメージは植芝理一の『ディスコミュニケーション

8.愛シカタナンテ知ラナイ/南條愛乃

南條愛乃の新しい定番曲』
 かなり身体が動いちゃう前の曲から、すっと耳に飛び込んでいきなり身体が浮き上がるような浮遊感のある音。
 これに南條女史のクリアなボイスが加わって、本当に空に吸い込まれそうな、インパクトではなく心に印象的に残る曲に。
 考えてみれば南條女史の声質からすれば、こういう曲がもっとあって、もっと定番曲のひとつとして歌っててもよさそうなのに、不思議とその印象はなくて。
 なので、やっぱりこの曲も彼女のために作られた、新しいドレスの一着なのかなと思うのです。
 あと、歌詞の文字数が少ないのが個人的に好み。少ないワードで、ちゃんとシーンが見えて、古き良き歌謡曲の空気があるのがよいです。
 曲としてはシンセメインだと思わせておいて、細かくギターが旋律をサポートしてて、やっぱり丁寧な、いい仕事だなーと改めて。

9.short hair EGOIST/小松未可子

『やっと知ってる感じの曲調出てきた……けどさ、この密度やっぱおかしい』
 ちょっとおもちゃっぽくギターが出てきて、スカっぽいリズムになって、あー知ってる知ってるこういうライン楽しいよねようやく普通の曲……って思ってたらちょこちょこテクニカルなところが入ってきてやっぱり普通の曲じゃなかった。あといいからベース落ち着け。落ち着け。
 なんで1番と2番の間に別の展開入れてんだよ! とか、落ちサビ前まで変えるとかどういうことだよ! とかツッコんでるうちにツッコみ疲れて、もうどうにでもなーれ(AA略 みたいな気分でノる。そんな感じでした。
 これ歌った小松女史大変だったろうなーと思いつつ、こういう曲を自分の持ち歌、つまり武器として持たせてもらえたのは彼女の年齢考えたら望外の喜びなのでは、とか思ったり。

10.「ごめんね」のシンデレラ/鈴木このみ

『大団円! ここに来てド直球!』
 鈴木このみのボーカルとしての魅力、歌い方によって明るくも切なくもなる彼女の声質をどうやって魅せてあげようか、とQ-MHzのメンツが悩ましくも楽しんで作ったんじゃないかな、と思えるような曲。
 「わかるよ、わかるけど」のあたりの気持ちをぎゅっとつかむような歌い方とか好みっす。
 で、ボーカリストの方を向くとそういう印象の曲なんだけど。
 これたぶん、作り手側を向くとがらりと様相を変えるんですよ。走り続けてる、作り続けてる人間の倦怠と自己嫌悪がチラチラと見えてて。
 そしてあるとき気づくわけですよ。

「ほらね そこに落とした涙 空と心に溶かせば混ざり合うでしょう/だから…笑えるよ」

隠して言葉にしちゃいけないことなんてないよ

 Q-MHzのメンバー達が前に進むための歌詞なんじゃないかなーと思ったり。そしてそれを鈴木このみという歌姫に託して歌ってもらうことで、歌詞という自分達で作ったパーツを歌という作品にしてもらい、自分の心に落とし込みたかったんじゃないかなー、とかとか、そんな想像をしたくなっちゃう。
 じゃあそれド直球じゃないじゃん? と思うじゃん?
 アニソンってさ、アニメのソングじゃないですか。アニメを語るものじゃないですか。物語を語るのがアニメなら、アニメを語るって物語を語るのを語るわけで。
 私こういう歌詞みたいなストーリー大好きなんです。

 あと、いいからベース落ち着けよ! 最後まで働き過ぎなんだよ!(キレ芸

最後に

 2月3日からiTunesなどでの配信が始まるそうで、この記事を読んで興味を持ってくださった方がいらっしゃったら、試聴なり、気に入った曲を買っていただければうれしい限り。
 でも、昨今めずらしくライナーノーツが充実しており、制作過程での苦労話などもかなり赤裸々に載ってて、これだけでひとつの読み物として楽しいので、CDを買うのを強く推奨します。
 Q-MHzのみなさんお疲れさまでした! すてきなアルバムをありがとうございます! ところでこのアルバムひっさげてのライブいつやるんですか? やるんですよね? やりやがれください(迫真